役職定年は「終わり」ではなく「転機」~社会変化を捉え、人事部が今すぐ整えるべき制度設計

多くの企業で役職定年が導入されています。55歳前後で管理職を退き、同じ会社に在籍しながら一般職へ戻る仕組みは、ポストの若返りには有効です。しかし、これまで築いてきたキャリアと役割が変わることで、モチベーションを保てなくなる社員が出るのも事実です。
人事部にとって重要なのは、制度導入後に社員がポテンシャルを発揮し続けられるよう、再成長の機会を設計することです。この記事では、近年の定年制度の変化や法改正の流れを踏まえ、経験豊かなベテランを「頼れる」人材として活躍させるポイントを解説します。
定年制度の潮流が変化~「60歳で一区切り」から「70歳現役時代」へ
定年法制度改革の流れと企業義務の強化
2025年10月現在、政府は高齢化社会対応の一環として、企業に対し高年齢者の就業機会確保をより強く求めており、例えば、継続雇用制度を整備し、希望する社員には65歳までの雇用機会を確保することを義務づけられています。また、70歳までの就労機会確保についても努力義務化が2021年4月から施行されています。
このような法制度の変化によって、定年延長・継続雇用の設計は避けることのできない人事課題となりました。また、助成金制度や税制優遇などを活用して高年齢者雇用を促進する政策も整備されており、制度設計にあたってはこれらを踏まえたコスト・効果分析が求められます。
社会意識・働き方観のシフト~第二のキャリアも「納得して自組織を選んでもらう」
かつては「定年=リタイア」のイメージが強かったですが、今ではシニア層の「第二のキャリア」を後押しする社会的な期待が高まっています。終身雇用が崩れつつある中で、人生100年時代を前提としたキャリア形成が注目され、高年齢社員自身も「定年後にどう生きるか、何をするか」を早い段階からなんとなく視野に入れるようになってきています。
こうした変化を無視して、「定年で終わり・再雇用で給与を大きく下げる」制度をそのまま運用していると、貴重な人材の流出やモチベーション低下を招きかねません。
役職定年のメリット・デメリットを整理する
若手登用・組織の新陳代謝を促す一方で、知の断絶リスクも
役職定年の導入は、若手にポストを開放し、組織の活性化を図る目的があります。一方で、経験豊富な管理職が現場を離れることでノウハウの伝承が途絶えるリスクもあります。特に、役職を外れた社員が「自分はもう組織から評価されない」と感じると、周囲との摩擦や不協力が生じる可能性があります。
報酬の大幅な減額が招くモチベーション低下
役職定年に伴う報酬ダウンは、社員の意欲を直撃します。年収が減れば、心理的には「この組織に見切りをつけたい」「期待されていない」と感じやすくなるのは自然なことです。そうならないように、人事部は制度設計の段階からモチベーション維持策を盛り込む必要があります。
人事部門が今すぐ取り組むべき「意欲を高める」ための具体策
最初の一手:定年制度の見直しは就業規則の改訂
労務管理上、定年年齢や再雇用条件は就業規則に明記すべき事項です。見直しの際には、以下の3点を特に検討する必要があります。
- 定年年齢と再雇用年齢の整合性
例えば、定年を60歳のままにしても、実質的に65歳まで継続雇用を義務づける場合は、再雇用条件を明確にする。 - 賃金・職務内容の妥当性
再雇用社員が「同じ仕事で賃金だけ減る」状態になると不満が蓄積しやすく、公平性が問われる。専門給・指導手当・成果給などを組み入れた賃金形態をあらかじめ設計する。 - 評価制度の明文化
管理職と非管理職では評価すべき観点が異なる。再雇用社員に対する評価基準が曖昧だと、本人の成長意欲を削ぐことから、職務・成果・貢献度に応じた透明性の高い基準が必要になる。
社内キャリアの「再設計」支援
役職を離れた社員にも、新たな役割・目標を設定する機会を提供します。後進育成・業務改善・顧客対応の品質向上など管理職経験を活かせる分野を推す以外にも、これから組織が挑戦していこうとしている新規事業のスターティングメンバーにアサインすることもできます。責任と業務量が減り、これを機に心機一転初めてのことにトライしてみよう、と考える方も少なからずいらっしゃいます。
「シニア専門職」「プロジェクト参画枠」などを設けると、自分の知見が活用できることや未経験業務でのやりがいが見えやすくなります。
支援策の運用にあたっては、対象社員一人ひとりの希望や意欲を把握することが重要です。社員の負荷・意欲・各種の制約といった事情をふまえ、どんな働き方を望むかを個別面談で整理し、マッチングを検討します。
再教育制度の整備
再雇用社員・シニア層に対しても、若手社員たちと同じように成長のための教育が重要です。「ベテラン社員向けキャリア再設計」や「リスキリングプログラム」などを導入すると、組織からの期待や自身がいま果たすべき役割を感じやすくなります。また、目に見える成果・実績だけでなく、組織貢献・知識共有・人材育成といったところも、再教育によってさらに高められます。
継続的な制度改善と意識転換で「この組織で長く活躍したい」を目指す
定年・役職定年のルールと評価基準が分断されていると、現場で混乱が生じます。例えば、「役職を離れた社員は昇給対象外」といった文言が人事制度に残っていると、本人のやる気を大きく損なう恐れがあります。人事部は、就業規則・人事評価・報酬体系の整合性を再点検し、年齢や職位に関係なく挑戦できる仕組みを整えることが求められます。新たな定年制度の運用後は定期的な効果測定・アンケートなどで実態をつかみ、改善を重ねることを繰り返しましょう。
役職定年は、組織にとっても個人にとっても再スタートのタイミングです。人事部が適切に制度を運用すれば、ベテラン社員の知見を活かしながら、若手の登用も両立できます。そのためには、「定年=引退」ではなく、「定年=新しい働き方の始まり」という意識への転換が、全従業員に必要です。
50代向けキャリアデザイン研修~キャリアシフトに向けた意識変革と計画策定
人生100年時代における50代は、キャリアの第二ステージの入り口。この先の長いキャリアを役職定年・定年・再雇用という組織が決めた枠の中で位置づけようとすると、活力を失い、貢献実感が持てない働き方になってしまいかねません。
それに対して、「キャリアシフト」という考え方とともに新たなステージでの働き方を捉え直すことによって、より前向きで能動的な働き方ができるように導くプログラムです。
よくあるお悩み・ニーズ
- 役職定年、定年、再雇用という節目を受動的に受け入れていくことに、何かもやもやしている
- この先15年に及ぶキャリアの第二ステージについて改めて考える機会が欲しい
- 会社にただしがみつくのでもなく転職や起業に踏み出すのでもない、第3の方法が知りたい
本研修の目標
- 来たる定年退職・定年・再雇用の日に向けた心の準備ができる
- 前向きにキャリアの第二ステージを迎えるためのポイントが理解できる
- シニア期の働き方を充実させる上でリスキリングが重要なカギを握ることが分かる
セットでおすすめの研修・サービス
(定年退職者向け)社会保険講座~社会保険労務士の解説で、年金制度改正法をふまえて学ぶ
60歳前後の方を対象に、お金に関する制度と、今後必要な手続きと受けられるサービスについて解説する動画コンテンツです。
年金の受給開始年齢によっても受取額は変わります。また、退職後は、確定申告を自身で行う必要があるなど、企業で務めていた時とは大きく変化します。雇用を継続した場合と退職した場合、それぞれのお金にまつわる制度を理解できます。
人事制度設計支援サービス
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ベテラン世代の輝かせ方研修~年上の部下への関わり方を学ぶ
年上の部下を上手くマネジメントするためには、ベテラン世代の来し方を理解するところから始めなければなりません。
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